4/30(日)前田真宏さん・山下いくとさん・出渕裕さん デザイントーク(司会:庵野秀明監督) イベントレポート

4/30(日)に新宿バルト9にて2日連続スタッフトークの2日目、『シン・仮面ライダーデザインワークス』発売記念『シン・仮面ライダー』デザイントーク付き上映会が行われました。
上映後のイベントでは庵野秀明監督が司会進行としてサプライズ登壇。庵野監督の進行のもと、デザインを担当した前田真宏さん・山下いくとさん・出渕裕さんをお招きして『シン・仮面ライダー デザインワークス』をもとにデザインに関する濃密なトークが繰り広げられました。

(左から、前田真宏さん・山下いくとさん・庵野秀明監督・出渕裕さん)

◎このお三方にデザインをお願いした経緯

庵野監督:真宏(前田)は、もちろん腕がいいのもあるんですが、「ガメラ」シリーズ、「ウルトラマン」シリーズ、『シン・ゴジラ』、『シン・ウルトラマン』に携わっていて、あとは「仮面ライダー」シリーズに参加してコンプリートしてほしいなと。
そして、山下(いくと)君は、「仮面ライダー」は通っていないけれど、だからこそ入ってもらいたいというのと、もともとセンスが面白いのでお願いしました。
ぶっちゃん(出渕裕)は 『仮面ライダーTHE FIRST/THE NEXT』であんないい仕事しちゃって「僕の時まで待っていてくれればよかったのに」と思っていましたが(笑)、ご本人からぜひやりたいと言ってくれたので、参加していただきました。

◎仮面ライダーのデザインについて

前田:方向性が決まったのは『仮面ライダーTHE FIRST』があったから、というのもありますよね。

出渕:僕の場合、『仮面ライダーTHE FIRST』があるから、どうしてもその二番煎じになってしまう・・・それを避けて、結果的に原点回帰になったところもあるのかもしれませんね。『シン・仮面ライダー デザインワークス』(現在発売中)に、その試行錯誤した過程が載っています。
前田:日本人体型もとても意識しましたね。マーベル的なマッチョな感じにするのではなく、ソフトマッチョな見え方を意識しました。(池松さん)本人がスーツを着て撮影することはわかっていたので、池松さんに合わせて、写真の上からデザインを描いてみたりしています。


◎大量発生型相変異バッタオーグのサイクロン号について

山下:僕は、どうしてもブチ穴(※)入れたくて、デザインの段階で隙あらば入れていたんですよ。入れた方がかっこいいとずっと言っていたのに、会議ではみんなスルーするんです(笑)。

出渕:入れたものを見てみるとカッコいいね(笑)。

庵野監督:実車で撮影しようとして作っていたので、ブチ穴を入れると難しい部分があって断念したんだけど、結局CGになったから、入れておけばよかったかな(笑)。


※丸い穴を5つ台形状に並べるデザインで、出渕さんが手掛けるメカニックデザインにて使用されていることが多く、この愛称が使われています。このイベントで「ブチ穴」の名付け親は実は庵野監督かも、というお話も出ました。

◎大量発生型相変異バッタオーグについて

出渕:石ノ森先生の原作にある「雨の中の仮面ライダーとショッカーライダーのシーン」がカッコいいからぜひ入れて欲しいと(監督に)お願いしていて・・・。撮影したものの、結局カットせざるを得なかったということですが、さっき控室で未使用シーンを見せてもらいました。

庵野監督:雨の中のCGがどうしても難しいということだったんです。

出渕:最終的にはトンネルのシーンになりましたが、かっこよかったですよね。

前田:トンネルのシーン、僕は好きですね。

山下:僕も好きです。だんだん幻想的な戦いに迫っていく感じがして。

出渕:デザインとしては、仮面ライダーのベルトをデザインする時に出ていた山下さんのアイディアが入っています。

山下:今回は誰がどれを担当したという境目がなくて合わせ技ですよね。


◎サイクロン号について

庵野監督:(1971年の「仮面ライダー」の)デザインを変えたくない思いがあったけど、山下君から、今と昔ではバイクのフレームの構造が同じではないので、実際にはそうならないんだということを示されたんです。

山下:マニアの方はフレームごと改造している人もいるから、絶対にできないというわけではないのですが。

庵野監督:ただそこまでやるには色々な問題があったので、今の形になりました。

前田:でも最終的にすごくいい形になりましたよね。


◎仮面ライダーを含むオーグメントのデザインについて

出渕:前田さんは当初、バイオというか、人そのものが変化したクリーチャー的なところもイメージしていましたよね。

前田:そうですね。自分はどうしてもそういう方向に頭がいってしまって。

出渕:前田さんが初期に作ってくれたライダーのデザインも、すごい面白いんですよ。

でもアニメだと成立するけど、人が入って作るとなるとなかなか難しいものがあるかなと思いました。

庵野監督:人間が中に入ることならではのフォルムの難しさもありましたね。


◎クモオーグについて

出渕:まず赤い3つの六角形は絶対に入れて欲しいというオーダーがありました(笑)。

庵野監督:「頭に六角形を3つ入れないと蜘蛛男じゃない」って頼み込んでやっと入ったんです。出渕さんはすぐ外そうとするから(笑)。

出渕:だから入れたじゃない(笑)。

山下:あと、出渕さんは六角形を入れてしまうと、ハチオーグと被らないかって心配していましたよね。

出渕:そうなんです。それも気になってしまったんですが、でも実際に頭にペイントで当てはめてみたら、すごくいい感じにまとまりました。衣装についても色々試行錯誤がありましたね。

前田:元々衣装はアクションしやすい感じにしようかという話もあったのですが、革のライダースジャケットというアイディアが出て最終的にあのビジュアルになりました。

出渕:あとマスクの顎のあたりに付いているパーツは、ガスマスク的なことではなく、糸を吐く機能のものとして描いて欲しいというオーダーがあって、その点もうまくいったと思っています。

庵野監督:釣具のリールみたいなイメージでお願いしました。

クモ先輩のデザインは本当にいい仕事をしてくれています。

出渕:クモオーグのパンツにマークを付けるのは庵野監督からの案でしたよね。

山下:あれって同族殺しの印なんですよね?

庵野:裏切り者とか、今まで殺した人のキルマークをSHOCKERエンブレムで入れたんです。

出渕:キルマークというのは、もともとは戦闘機とかで撃墜した履歴とかを残すマークのことですね。


◎コウモリオーグについて

庵野監督:早い段階からキャスティングが手塚さんに決まっていたので、初期の段階から、手塚さんの写真の上にデザインを描いてもらっていました。特殊メイクも、日本でも指折りの方に入っていただいて、素晴らしい仕事をしていただきました。


◎ハチオーグについて

出渕:ハチオーグに関しては、最初は和服ではなかったんですが、監督の方から着物にしたいというオーダーがありました。

庵野監督:1971年当時の(「仮面ライダー」に登場する)蜂女は、フェンシングのような戦闘イメージなんですが、それを日本刀に置き換えてみたんです。それで、日本刀にするんだったら着物かなと思ってそうお願いました。

出渕:蜂女の回に出てくるお店とか、(劇中の)商店街にありましたよね?

庵野監督:美術さんに商店街に出てくるお店の看板について聞かれて、1971年の「仮面ライダー」にあるものを抽出してみてください、とお願いしたんです。さすが出渕さん、気がついたんですね。小ネタは細かくやっていて他にもたくさんあります。でも、そういうことを知らなくても楽しめるので大丈夫です(笑)。

出渕:あと、ヒロミの殺陣よかったですよね。西野さんが本当にいい演技をされていましたよね。


◎カマキリ・カメレオン(K.K)オーグについて

庵野監督:1971年の「仮面ライダー」の第1〜8話に出てきた怪人で構成できないかと考えた時に、どうしても1体余ってしまうので、カマキリとカメレオンを組み合わせてみようということで、この形になりました。

今だったらCGでカメレオンの透明化も表現できるかなと。マスクのデザインは、出渕さんがまとめてくれました。

出渕:カマキリの部分は前田さんのデザインがよかったので、それをベースに考えさせてもらいました。あとは、監督が(1971年の「仮面ライダー」の)死神カメレオンっぽくしたいんだなという部分を調整したり。

庵野監督:(1971年の「仮面ライダー」の)かまきり男のうっすら目が見えているのもいいので、それも取り入れてもらいました。それと、昆虫合成型のマスクはなるべく喋ると顎が動くようにしたかったので、そういったこともお願いしました。

出渕:そうですね。実際に人が中に入っている動きがよかった。


◎サソリオーグについて

庵野監督:最初は男性キャラの設定だったけど、長澤さんが出演してくださることになって女性に変更しました。

頭にサソリの飾りを付けるとなると、アクションの時に重みを支えるのが難しいのでどうしようと思っていたのですが、地獄竜(「快傑ズバット」)の方式なら固定できるかなと(笑)。

CGチームもノリノリで尻尾を動かしてくれました。

山下:リモート会議がいつもこの感じなんですよ。僕は特撮を見てなくて全然わからない(笑)。


◎チョウオーグについて

庵野監督:チョウオーグカッコいいですよね。

出渕:モデルにしたのはマダラチョウ科なのですが、さまざまな写真を参考にしながら、変身していく過程なども、いろんなアイディアを出していましたね。自分でデザインを描いて、色を塗ろうと思ったら先に前田くんが塗ってくれていて、またカッコいいんです。

前田:ごめんなさい、塗っちゃってました(笑)。

庵野監督:チョウオーグの動きはほとんど森山さんのものですね。

前田:森山さんで本当によかったですね!僕は、チョウオーグが森山さんと聞いて本当に嬉しかったです。

庵野監督:本当にすごいよね。

出渕:役者さんとしてもすごいんですけど、パフォーマンスがまたすごい。セリフを語っている時の所作も本当に素晴らしかったですね。


◎デザイン全体について

山下:誰が何を担当したって境目が曖昧でしたね。

庵野監督:合わせ技でつくっていきましたね。

出渕:オーグメントもライダーもそう。ライダーは、ベルトは山下さんが、その他は前田さんがまとめてくれました。

前田:僕は皆さんから出てきたアイディアをまとめて、こんな感じですかね?と提案していく作業が多かったように感じます。


◎最後の挨拶

前田:見れば見るほどに面白い作品です。無駄を極限まで削っているので、庵野さんのこだわりが詰まっています。
でもその反対に「仮面ライダー」を全く知らない家族が結構泣いてくれていたりもして、知識がなくても楽しめる作品だと思います。

山下:実はラッシュなどは全く観ていなくて、みなさんと同じく公開されてから地元の劇場で観ました。映画を観終わってからもいつまでも話せる作品なので良い作品だと思っています。

出渕:庵野さんと仮面ライダーを一緒につくれたことはすごくよかったです。見るたびに味わいがある作品だと思います。一回観た時には流れるようなことが、観る度に染みてくる印象で、ドンと心に来るような作品になっています。
何度も見てもらえたら嬉しいし、監督には次回作「マスカーワールド」もぜひ作ってもらいたいと思います。

庵野監督:本日はありがとうございました。また機会があればこういったイベントをやっていきたいなと思います。