音楽プロデューサー・島居理恵さん インタビュー
シン・仮面ライダー音楽集の発売にあたり、音楽プロデューサー・島居理恵に楽曲制作に関するインタビューを実施しました。
ーーどのように今回の楽曲は作られたか
島居：
前提として、近年はほぼ全ての音楽演出を庵野監督自身が決めます。
他のアニメや映画における制作作業だと、音響監督や選曲のスタッフに判断を任せる場合もありますが、そのような工程とはだいぶ違います。そのため岩崎琢氏にもずいぶんと、いつものお仕事とは違う形でご尽力いただきました。庵野監督からは、まず「これこれこうして欲しい」というはっきりした指示があることはあまりありません。音楽家からの提案などを元に、より映像に合う思いがけない要素や、さらに高みを目指すためのエッセンスを探します。その探し方は「絞り出す」と表現してもいいくらいのレベルに達することがあり、もっと魅力的な方策はないかと、常に模索し続ける。ほとんど発掘や研究者にちかいと感じることもあります。
また音楽家にとって、約1年半もの間、同じ1本の映画のために音楽を制作し続けることは、かなり珍しい例だと思います。
岩崎さんにおいては、他のお仕事と重なったスケジュールのところもあったので、大きく異なるやり方を同時進行すること自体も、切り替えが大変だったと思い、感謝しています。
ーー新作として楽曲を制作する上で、意識したことは
島居：
あくまで音楽プロデューサーとしての立場ですが、たくさんあります。これまでのライダーシリーズの中で、今回が最も新しいわけだから、最も新しい作品としての音楽を作らなければならないと思いました。それと同時に、庵野監督から「オリジナルのライダーに使われた菊池先生の楽曲をいくつか引用したい」というリクエストを預かっていたので、その新しさと既存の楽曲のバランスをどうとるのか？どう見えるのか？落差ありすぎじゃないか？などと悩みましたが、正直悩んでいる場合ではなかったですね（笑）
ーーもともとの仮面ライダーの音楽は島居さんにとってどのように写ったか
島居：
かつての時代に子供向けとされて公表された作品は、テレビ番組であれば特に「あきらかに若年者向けを意識したもの」が多いと思います。特撮作品の中でも『仮面ライダー』は、石ノ森作品のダークさがあり、怪奇色の強いBGMがある中、バトルを代表して魅せる明朗な「レッツゴー!!ライダーキック」の音楽が世の中に必要で、それが受け入れられる時代に登場したものと思います。
一転、時間が経ち、世の中が様変わりして、特撮作品の音楽を取り巻く環境も変わったように感じました。しかし「ヒーローが悠々と活躍する場面を気持ちよく見たい」と思うのもまた人の性であり、今の時代に感覚をあわせながら、その効能を両立するために、工夫し、熟考を重ね、「レッツゴー!!ライダーキック」の明朗なメロディに対し様々なアレンジのアプローチをかけました。その印象はまさに昭和の強さともいえる強靭さでした。果たしてその結果がどうなったかは、ぜひ楽曲自体を聞き、ご自身で感じ取っていただきたいです。
ーー楽曲の収録時に印象的だったエピソードを教えてください
島居：
TVアニメ『ヨルムンガンド』などにも参加されている、福岡ユタカさんのオリジナルの歌唱が印象的です。別世界へ連れていってくださる方で、不思議な魅力にあふれています。国や時空などの概念が消滅し、独特な映像美に寄り添う信憑性が生まれました。
また今回の音源は、コンサートホールでオーケストラによる収録をおこなったものがあります。人は鼓膜だけではなく頭蓋骨などでも音を認識します。音楽の魅力をより認知させるため、「音そのものではないところ」も大切なのです。つまり空気そのものに、音波が溶け込んでこちらへ染み込んでくるようなイメージです。そうした収録に込めた思いの一部でも、音楽集を聞いた際に伝わったら嬉しいです。
また、ディスク2枚目のボーナストラックには、菊池俊輔先生によるオリジナルBGMを本映画の使用尺にカッティングした音源である「頻発する怪事件 シン・仮面ライダー Movie size（M-23A）」「孤高の魂 シン・仮面ライダー Movie size（M-25）」「前哨戦 シン・仮面ライダー Movie size（M-17）」も収録されています。このMナンバー表記は当時のTVシリーズ音楽制作時のMナンバーを踏襲しており、庵野監督により是非タイトルとして記載して欲しいというリクエストをうけ、過去楽曲のMナンバーをそのままに残しました。新旧音源がともに楽しめる音楽集となっております。
＊『シン・仮面ライダー』音楽集
https://www.shin-kamen-rider.jp/music.html
＊試聴動画はこちら
＊2002年に発売され、菊池俊輔先生が手掛けたオリジナル作品の音楽が楽しめる
「ETERNAL EDITION 仮面ライダー」CD音源の配信はこちら
https://kamenrider.lnk.to/ETERNAL-EDITION_1-3
今後も『シン・仮面ライダー』の展開にご期待ください。